豊川工業高校陸上部

高校駅伝の取材で、今度は愛知県の豊川へ行った。
先日伺った那須拓陽高校は県立校ながら、全国大会出場男子4回、女子10回を誇る強豪校だった。
今回の豊川工業高校も同じく県立校だ。全国大会出場男子9年連続9回、準優勝1回、3位2回、女子も4回出場と、那須拓陽を上回る成績をおさめている。
私立の強豪校が全国から有力選手をリクルートするだけでなく、外国人留学生を受け入れて強化する中、この成績は驚異というほかない。


監督の渡邉先生にお話を伺いながら練習を見学させてもらった。
ホームルーム終了後5分と経たないうちにグランドに集まってきた選手たちは、前日の雨で少し柔らかくなったトラックの状況を観察し、整備を始めた。
整備が終わると、各自の目標を書いた紙をグランドのネットに貼り、今日の練習の目標を大声で宣言する。
頭で考えるだけでなく、紙に書く、声に出して言うと、考えをより明確にでき、目標達成に対して責任感を持てるようになるのだろう。


ウォーミングアップで鉄棒を始めたのにも驚かされた。
渡邉先生によると、握力の強化はレースで最後の踏ん張りに効くという。
ストレッチングは、コンクリート製の大きなU字溝を等間隔に並べて板を斜めに渡したものに乗っかってやっていた。
帰ってからネットで調べてみると、中川式ストレッチベンチを自作したものらしい。
実際に座ってやってみると、ヒザの裏側がしっかり伸びる。
このストレッチを入念にやっておくと、腰痛に悩まされることはないそうだ。
このあと選手たちはイモムシのようにグランドをはいずったり、競歩の動きを極端にしたようなミョーな歩き方を始めた。
肩甲骨と股関節を大きく、柔らかく、鋭く動かすための動き作り、ということだった。


このあたりから、私の興味は完全に取材を離れてしまった。
渡邉監督のトレーニングやらチーム作りが、スキーの動きや指導法にそのまま当てはまる、と思ったからだ。
「練習の最後には40mの砂場を裸足で走らせるんです。これで疲れた脚を緩めることができる」
「最近の子供たちは小さいときからそこの厚い靴を履くので足底部が弱い。足の親指がバランスをとる元なんです」
仙骨を立てると脚が長く使える」
「太腿の前面を使うと着地のときにブレーキがかかります。後ろの筋肉を使う練習をするんです」
スキーの滑りではこうかな、この動きを伝えるためにはどうしたらいいんだろう、そんなことばかり考えながら、インタビューは練習が終わるまで続いた。


明確な理念を持ち、それを実現するための具体的な方法論をきちんと実践している。
一流選手を集めるだけじゃなく、集まってきた選手を毎年トップレベルに鍛え上げてる人は、やっぱりひと味違う。
感心、感動の1日だった。
ライターとしてはインタビューを原稿化しなきゃお金にはならないけど、渡邉監督の話を聞いて練習を見学しただけで十分にトクした気分だ。