アドベンチャー

5:40 出発。
このあたりはガスっているが、天気はよさそうだ。
剱の頭が少し顔を出している。

唐松岳山腹をトラバースしながら降りていく。
露のついた草で、足元がびしょ濡れだ。
いくつかのクサリ場を通過して、昨日中川さんに言われた場所(ガスっていたので小屋は確認できなかったけど)まで、40分で来た。
8時間では行けそうだ。
道に足跡はあるものの、そんなに大勢が歩いた気配はない。
ま、なんとかなるだろう。


チングルマアオノツガザクラが満開だ。

「馬鹿下り」と言われる坂道を快調に下る。
昨日の疲れはなさそうだ。


餓鬼山の登りにさしかかった。
確かに急だ。
道は狭い上に、草刈りがされていないので、腰から肩ぐらいまで伸びた草で隠れていて歩きにくい。
クロマメの実がもうなっている。

ひとつ口に入れると甘酸っぱくて元気が出た。
それでも避難小屋にはちょうど4時間で到着。


軽く行動食を口にして再び歩き始める。
快調に歩くが、なにか音がする度に、クマか? マムシか? と不安になる。
クマよけの鈴を持っていないことを後悔した。
大声で歌でも歌おうと思ったが、頭に浮かんでくるのは
「♪ある日、森の中…」


餓鬼ノ田圃を過ぎると、また草が深くなった。
しかも、足元の石は苔むしていてツルツル滑る。
草をかき分けかき分け、足元を一歩ずつ確かめながら、そろりそろりと進む。
南越沢まで1時間半近くかかった。


沢の水で顔を洗って一休み。
先ほどの下りで、すっかり足にきてしまった。
沢床を歩くのかと思いきや、道は高巻きして左岸に沿っている。
ここも背丈ほどの草で覆われている。
道と呼べるほどのものではない。
右へ落ちないように、ずっと踏ん張り続けてなくてはならない。
足が重い。
なかなか前に進めない。
こんな所へお客さんを連れてくるのは、絶対ムリだと思った。
自分が降りていくのに精一杯だ。


ようやくのことで、「祖母谷温泉まであと30分。がんばろう」という看板を見つけた。
先は急な登りだったが、最後のひとがんばりだと思った。
が、30分経っても着く気配はない。
ようやく、沢に堰堤を見つけたのが、看板から45分後。
そのあと橋が見えてきた。


橋の上に人影が!!
8時間ぶりに見る人間!? だ。

写真をあとで見てビックリ、人が写っていない!?
よく見ると橋に隠れていた。

13:30 祖母谷温泉到着。

小屋のご主人に「この夏何人ぐらい降りてきましたか?」と聞くと、
「唐松からは3人目ぐらいかなぁ。白馬岳からはけっこう来たけど」。
さもありなん。


明日から草刈りに入る予定、だって!!
もう少し早くやっといてくれれば…。


温泉に入っていってください、と言われたけど、先の時間が読めなかったので、とっとと欅平まで歩いていくことにした。
初めてトロッコ電車に乗る。


1時間あまりで宇奈月到着。
すぐに富山地鉄に乗り換えて魚津へ。
が、ここからが連絡が悪く、糸魚川で2時間も待たなくてはならないと言う。
しかも、100km未満の切符だから途中下車はできないらしい。
仕方なく、魚津で食事をして1時間半後の電車に乗ることにした。


入ったのが、駅近くの洋食屋でオムライスを食べた。
あとで、魚津まで来て、なんでオムライスなんだ! と後悔した。
まわりには地元の魚を食わせる店もいっぱいあったのに…。
あまりに疲れていて、思考回路がちゃんと働かなかったのかも!?
私としたことが、下山後温泉にも入らず、美味いものも喰わずに帰路につく。
9:30 ようやく白馬に着く。


とにかくくたびれた。