10万円の値打

クライストチャーチは快晴。
今日こそ大丈夫だろう。
ヘリはともかく、あのセスナにはムダに何度も乗りたくはない。
M浦さんは「ナカニシさんはスキーを履いてないと臆病だから」と言う。
確かにそうかもしれない。


眼下にサザンアルプスを眺めながら、1時間あまりでマウント・クックの空港に着いた。
10数年前に来たときと比べて少し殺風景な感じだ。
お土産やスキー用品を並べたショップも、2階にあったカフェもなくなっている。
ヘリの定員の都合で私たちは2グループに分けられた。
T塚さんと私は1番目、他の4人は2番目のグループだ。
外でビーコンの使い方を少し練習して(こんな程度の練習で埋没者を発見できるとはとても思えないが)、さっそくヘリに乗り込んだ。


1本目、かなり狭い稜線上にヘリは着陸。
「私より上で止まれ」とか、簡単な注意だけして、ガイドは急斜面へ飛び込んでいった。
あとの2人(外国人のご夫婦。そこそこトシはいってそうだけど、山スキーには慣れてる感じ)も続いて滑り出す。
T塚さんは少しビビっているようなので、反対向きに滑り出した方が斜度を感じない、とアドバイスして先に行かせる。
斜面は急だが雪は硬く、イマイチ気持ちよくはない。
少しねじれた斜面をギルランデのように滑って1本目終了。
なんだかなぁ、って感じ。

写真は私たちの組のガイドの…。名前忘れた。


2本目は1本目の到着地点から見えていた雪崩れた斜面の上に着陸。
反対側を滑るのかと思いきや、雪崩れた横を滑り出した。
ここは雪も柔らかく(パウダーという感じではなく、あくまで春雪ですが)、距離もけっこうあった。
やっとソノ気になってきた。
2本目を滑り終わってランチかと思っていたら、続けてもう1本飛んだ。
ここもけっこう気持ちのいい斜面。
T塚さんもかなり慣れてきたようだ。
3本目の途中でランチ。
後続のグループとヘリで運ばれてくるランチを待つ。
後ろの4人組はさすがの滑りで降りてくる。
先頭のガイドのスピードが遅すぎてもどかしそうなぐらいだ。
ランチを食べながらまわりを見渡すと、今年の春滑った立山川の滑り出しのような感じだ。

そういえば、横の山はギザギザの岩山でまるで剣岳のようだ。
でも、その隣もやっぱり剣岳
あっちを見れば剣岳、こっちを見ても剣岳
剣岳に囲まれてるような気になった。


下の写真は、マウント・クックの山頂。
ヘリで移動しながらいろんな方向からマウント・クックを眺められた。


ランチのあと、3本目の残りを滑り、4本目、5本目と続いた。
10万円は確かに高いけど、これだけの距離を歩いて登っていたのでは何日もかかってしまう。
やっぱりカネで解決できるものは解決しておいた方がいい。
ガイドが「エキストラ・ランはどうする?」と尋ねてきた。
「後ろの組と相談して」と答えながら、私自身は行く気満々であった。
「どこを滑る?」と聞いたときにガイドが指さした斜面を見て、もう決定!
後ろの組を待たずにヘリに乗り込んでしまった。
(実はこの時、後ろの組のガイドがヘリに乗ってきたので、なんか変だなぁとは思いつつ、英語で尋ねるのも面倒なのでそのまま乗ってしまった)


エキストラ・ランの着陸地点は、今までのどれよりもやせた尾根だった。
これまではさっさと降りていたが、今回だけは上空でホバリングしながら着陸地点を慎重に選んでいるようだった。
最初に降りたT塚さんがガイドに指示されてヘリの離陸の際に待機したところは、50cm後ろがガケだった。

最後の一本は圧巻だった。
距離も雪質も間違いなく今日イチだった。

写真はエキストラ・ランの最後の斜面。この上にこの3倍ぐらいの長さの斜面が続いている。
エキストラ・ランのために一番いい斜面を残しておくんじゃないか、と勘ぐりたくなるぐらいだ。
写真は最後の一本を堪能したあとのメンバー。


後ろの組が来ないなぁ、と思いながら、迎えのヘリでマウント・クック空港に向かった。

「プリンセス・シート」と冷やかされながら前の席に乗せてもらったT塚さん。
空港には、後ろの組が先に戻っていた。
聞くところによると、5本目を滑るときにガイドのブーツが割れてしまい、3組目のガイドに連れられて降りてきたそうだ。
不測の事態に舞い上がってたガイドは、エキストラ・ランのことなど言い出しもしなかったそうだ。
最高の思いをした最後の一本だったけど、みんなの前ではあまり話せなくなってしまった。